あの、悲しい笑顔が忘れられず一週間が経った。
待ち時間にぼーっと見つめていたものが、ぼーっと考え込んでいたものが全てあの表情に埋め尽くされる。
 
南條さんには何があったんだろうとか、そういうことじゃなくて。
南條さんにそんな表情をさせる相手はどんな人なんだろう、と考えてしまう。
全く自分勝手で他人の感情に土足で踏み込むようなことを考えているのは自分でもよくわかった。
それでもその思考は留まるところを知らず、ただ意味のわからない展開へと妄想の駒を進め続けた。
 
「やっぱ待たせてばっかりだな、ごめんね」
南條さんはそう言いながら小走りで俺の方まで来た。
「今日は、全然待ってないので。」
「そう?それならいいんだけど・・・。」
南條さんは今日もいつもの調子と同じだった。
 
「南條さんの好きな人ってどんな人なんですか?」
どうしても聞いてみたくて、つい唇からこぼれた。
「めずらしいね、高槻くんから話題ふって来るの」
南條さんは、淡々と続ける。
「どんな人だろうね、よくわかんないけど気づいたら好きになってたよ。」
 
なぜかイライラした。
最近まで好きな人がいたけど恋ってなんだっけと思った。

「高槻くん?」
「あ、はい」
心配されたから笑顔を作ると、にへっと笑い返される。
 
「ごめんね、」
南條さんはそう一言うと、俺の頭をクシャっとなでた。
「恋は罪悪だよ、本当に。」
独り言のように夏目漱石の言葉を吐き捨てる。
 
そのあとは他愛もない話をして、いつものように南條さんが改札に消えただけだった。
また7日後には会えるこの人に次は会えないような気がして、痛い。


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